オン・ザ・ハンモック

2012/01/11

神奈川県の三浦市に引っ越してきて、ちょうど2年が経ちました。

初めて会う人には、よく三浦市に移住した理由を訊かれます。
その理由の1つはハンモックを吊るすのに最適な庭のある家を見つけたからでした。

さてハンモックの魅力に出会ったのは3年前、ベトナムを旅行していた時です。
とくに目的もなく強行してしまった旅だったので、何をしようかとホーチミンに着いてから考えていました。
そしてメコン河をクルージングするツアーがあり、そのツアー先の食堂でホームステイが出来ることがわかりました。

旅先で民家に滞在するのは面白いです。
危険もあるのでおすすめはしませんが、そこで暮らす人の生活が垣間見える。
普段そこで食べられている食事ができる。
ゆっくりといろんな話ができたりもする。

一人旅だったので、思いついたことは即実行です。
すぐに旅行会社に行って、2日間ホームステイをしたいと告げました。
しかし、そこのスタッフには怪訝な顔をされました。
「あそこは2日間も滞在するようなところではない」と言うのです。
ただ、自分は一度決めてしまうと頑固なところがあって、
「いいのいいの、2日間でよろしく〜」てな感じで押し切ったのでした。

メコン河クルーズはそれなりに面白いものでした。
ボートでメコン河のジャングルを巡って、ココナッツキャンディを製造している工場なんかも見学したかな。
でっかい蛇がいたのでそれを首に巻いたりして遊んだ記憶があります。
そして昼食はメコン河の中州にある食堂へ。
エレファントフィッシュのフライなどに舌鼓を打ちつつ、ツアー参加者のみなさんともお話したりした。
「僕はここに2日間ステイさせてもらうんですよー」「えっ…なんで!?」なんて会話もあったり。

ここの食堂の飯はなんでも美味かったです。あとビールが飲めるってのはかなり助かった…。

束の間の同行の方達とお別れをして、
いざ今日から滞在するこの島を探検しよう!ってことになりました。
まあ、1時間ほどで探検は終わりましたね。
ここは直径が1kmくらいしかない小さな中州だったんです。

さて2日間、48時間、結構長いです。
夜は蛍が見られますが、それ以外は大したイベントもありません。
ステイ先の家族とお話をしようにも、カタコトの英語も通じません。

そして目に入ったのが食堂の片隅に吊るされたハンモックでした。
それから2日間は見事に何もしなかったです。
ハンモックに揺られながら本を読んだり、考え事をしたり。
食堂の子供たちと仲良くなったので一緒に遊んだり。
朝飯を食った後はゆらゆら揺られて、チョロっと散歩したら子供たちが遊びに来て、
またゆらゆら揺られていたら昼飯の時間になって、そんでハンモックで昼寝して、みたいな感じです。

ここに住む人たちの生活も観察していました。
島には畑があり、果樹園があり、鶏がいたるところを走っています。
一家の長らしきお父さんは常にランニング姿で何をしているというわけでもなく庭の軒先に座っていました。
たまにハンモックの上にいましたね。

働いているのは女の人たちでした。
洗濯して、掃除して、食事を作って、食堂に来たツアー客に食事を出して、ライチなどを収穫して。
やることは沢山あるようでしたが、彼女たちもハンモックで昼寝したりしていました。
夜はテレビを観ていたと思いますが、就寝時間は早かったと思います。

彼らを見ていて、ちょっと羨ましくなりました。
特別に何もない感じがすごくいいように思いました。
それはもちろん自分勝手な視点なのですが。
多分裕福ではないでしょうし、旦那さんたちは夜明けと同時くらいに外に働きに行ってるみたいだったし、
子供たちは学校に行くのも大変だろうし、欲しいものを手に入れるのも簡単ではないだろうし。

ただ彼らの生活を見ていて、
面白いことや、ビックリするようなことや、
特別なことや、やらなくちゃいけないことが毎日なくてもいいよなーと思いました。

それから、日本に帰ってきてちょっと生活が変わりました。
料理をするようになったり、あんまり外食をしなくなったり、
多少の距離なら歩くようになったり、早起きになったり。
それまでは便利であることに重きを置いていたのが、そうではなくなったような気がします。
そして、あのハンモックの寝心地がどうしても忘れられなかった。

それから早かったですね。
3ヶ月後には三浦に物件を見に行ったりして、半年後には引っ越してきました。
そんで三浦に移住して、3ヶ月後には退職してフリーになって…。
その退職のお知らせをするメールに
「今後のことはハンモックに揺られながら考えたいと思います」というような文章を書いたと思うんです。

そんなこともあってonTheHammockという名前をレーベルに付けてみました。
まだ、口に出して言うのはぎこちなかったりします。

onTheHammock・桑村治良


[上左]ここにいつも一家の長が座っていた。[上中]こいつにiPhoneを渡すとすぐに使い方を覚えた。[上右]別に怒ってるわけじゃないです。[下左]最初はここでどうやって48時間過ごせばいいのか途方にくれた。[下中]この娘にはもてた。[下右]この娘にはもてなかった。